米MFグローバル・ホールディングス破綻の影響は限定的、焦点はイタリアの財政・金融問題に

■MFグローバルよりイタリアを懸念、ECB新総裁の手腕に注目
2011年 11月 1日 13:21 JST  
 
[東京 1日 ロイター] 米MFグローバル・ホールディングス破綻の影響は限定的で、市場はイタリアの財政・金融問題に焦点を移している。

 伊銀行の資本増強が注目点だが、株価が下落するなかでの自力増資は容易ではない一方、公的資金注入となれば国の財政悪化が懸念されるとして、欧州危機対策合意で回復したリスクオンムードは早くも一服。介入から1日経たドル/円は78円台を維持しているものの、欧米株安に押され日本株軟調だ。
 
 きょう就任したイタリア出身のドラギ欧州中銀(ECB)新総裁の「初舞台」となる3日の理事会で利下げがあるのか注目されている。 
 
  <破綻の要因は欧州ソブリン債の積極投資> 
 「ミニ・リーマン・ブラザーズ」との声も出たが、これまでのところ米先物ブローカー、MFグローバルの破綻がマーケットに与える影響は大きくない。米ダウ.DJIも276ドルの大幅下落となったがパニック的な投げ売りが出たわけではなく「売りが増加したというより買い需要が低下したことが下げの要因」(米系証券株式担当デスク)という。デリバティブなどによる複雑な影響がどう表れるかはまだ不透明だが、エクスポージャーの規模からみてショックは吸収できるとみらている。 
 
 もともと規制当局や金融マーケットは同行の先行きへの懸念を強めており、株価はこれまでの間に大きく下落。前週末28日の終値は1.2ドルと3か月前の約6分の1に下落していた。市場では「予想通りの破綻であり、リーマンのときのようなショックはない」(準大手証券)との声が多い。 
 
 だが、MFグローバルの経営が悪化した要因がイタリアやポルトガル、スペインなどの欧州ソブリン債への積極投資とあって投資家は不安を強めている。その対象の中心がイタリアと同国の銀行だ。
 
 31日の欧州債券市場でイタリア固定利付き債(BTP)10年物IT10YT=TWEB利回りは6.1%に上昇。欧州中央銀行(ECB)が8月に国債買い入れを開始した時の水準に近づいた。また、独連邦債10年物との利回り格差も410ベーシスポイント(bp)に拡大している。7%が売りが加速する一つの目安とみられているだけに「のりしろ」は大きくない。 
 
 イタリア大手銀行のウニクレディト(CRDI.MI: 株価, 企業情報, レポート)の31日の終値は0.8480ユーロ。今年2月の高値から半分以下の水準まで下落している。市場では、同行は来年早々にも、50億ユーロ(71億ドル)規模の株主割当増資(ライツイシュー)に踏み切るとの見方が浮上しているが、他の銀行を含めイタリア銀行の資本増強が1つの焦点となっている。「株価が下落するなかでの自力ファイナンスは容易ではない一方、公的資金注入となれば国の財政悪化が懸念される。市場のターゲットはイタリアに移ってきた」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券・投資情報部長の藤戸則弘氏)という。自力増資が不可能であれば、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)による支援の道も前日の欧州首脳の合意で開けたが、具体策はまだこれからだ。 

 イタリア基金貯蓄銀行協会(ACRI)のグゼッティ会長は、同国銀行に対する欧州銀行監督機構(EBA)の約150億ユーロ(210億ドル)の資本増強要請について、銀行に不利益をもたらすと反発。「強い憤りを感じる。フランスの利益が保護される一方、イタリアは不利益を被る」と語っている。
 
 先行き不透明感の強まりに31日の欧州市場ではウニクレディト以外にもイタリア銀行株が下落。高水準のイタリア国債10年物利回りと同国債と独連邦債の利回り格差拡大が売り材料となった。 
 前場日経平均.N225は欧米株下落を嫌気し続落。市場筋によると欧州マネーからのまとまった売りが引き続き出ている。中国物流購買連合会が1日発表した10月の購買担当者指数(PMI)が50.4と、9月の51.2から低下したことで、中国関連株の一角に売りが出た。「複数の後発事象で欧州債務危機が蒸し返されているが、EU首脳による包括策合意ですでに大きな流れは変わっている」(SMBCフレンド証券投資情報部部長の中西文行氏)と強気な声は残っているものの、上値が重い展開が続いている。
 
  <イタリア出身のECB総裁>
 イタリアへの懸念が強まる中で、市場の視線を集めているのが、きょうECB総裁に就任したドラギ氏の手腕だ。イタリア出身ということで、ハト派的な運営になるのか注目されている。
 
 10月のユーロ圏消費者物価指数(CPI)速報値は3.0%の上昇と高水準のままだったが、9月のユーロ圏失業率は10.2%と前月より上昇している。市場では「誤解を生まないよう甘い政策運営はしないはずだ。人物的にもクールな判断をすると言われている。ただ失業率の高さなど利下げ材料もある」(準大手証券)とされ、3日のECB理事会で利下げがあるかには見方が分かれている。
 
 また1─2日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも声明文などに追加緩和示唆が盛り込まれる可能性があり、欧米で金融緩和方向の材料が出た場合、円高が再進行する懸念もある。 
 
 介入翌日のドル/円は78円台でもみあい。前日の介入を受けて、参加者は政府・日銀の動向に神経質になっている。「今週の20カ国・地域(G20)首脳会議を考えればきょうは介入しないと考えているが、このまま介入効果がはく落してずるずる円高が進むようなら再介入の可能性もある。政府・日銀の動向には注意したい」(国内金融機関)という。

 セントラル短資FX営業本部の武田明久氏は「介入は、きのうだけでは終わらない可能性がある。介入に出尽くし感があればドル/円は売られるが、今の市場には出尽くし感はない」と話している。 
 
 <安全資産選好がやや回復>
 「安全資産」選好もやや回復し、午前の国債先物は反発。前日の米債市場で株安を受けた安全資産買いで価格が上昇した流れ受けて、短期筋の買い戻しが優勢となった。日経平均株価軟調地合いになったことに加え、外為市場での政府・日銀によるドル買い/円売り介入にも、円高圧力が依然として残っていることも手掛かりとなった。もっとも、株の下落幅縮小とともに、短期筋の戻り売りに押されたことで、国債先物は中盤から上値が重くなった。 
 前日の相場の下げ基調のなかでも長期金利は1.045%までの上昇にとどまっており、売り急ぐ動きには至っていない。海外市場が再びリスクオフの動きに戻りつつある中、市場では「長期ゾーンで、銀行勢などの押し目買い意欲の強さを確認することができた」(国内証券)との声が聞かれた。
 
 みずほインベスターズ証券チーフストラテジストの井上明彦氏は「日銀の時間軸の長期化を受けて、中期ゾーンでの金利の上昇余地は一段と乏しくなるとみている。資金余剰感が強く、国内債での運用ニーズも変わらない中、中期─長期ゾーンのスプレッドの縮小余地を探る動きが想定できる」と述べている。 
 (ロイターニュース 伊賀大記;編集 宮崎亜巳)