いつものBAR、すでに「株ブーム」であるらしい話。

23時をまわってもカウンターにオレ一人。

いつもながらヒマだねと二本目のビールを注意深くグラスの上1センチまで泡が盛り上がるように注いでいると、いきなりマスターが 「母親が証券会社に勧められて口座開設したんですよ。」


「え?」
「証券会社の電話営業で、自分とオヤジのぶん二口座つくったそうです。」

「えーー、お母様はそういうのなさらないよねー」
「ええ、もちろんしませんし、株式のことはなにも知りません。」


カウンターの突き当りのモニターでは、ウガーテがボギーに旅券を託している。
この店は 「カサブランカ」 「ローマン・ホリデイ」 「マルタの鷹」 「ビッグ・スリープ」しかかけないのである。

今夜モロッコの話なら、明日はローマでヘップバーンが大暴れだろう。



「何も知らないのに口座開設、、お母さんは手堅い人生の方だよね。
 …ふーん、じゃあ世間はそういう 『株!』なムードなんだ。」
「そうみたいですよ。 で、ケッサなのが薦められた銘柄がウルトラ系の商社なんです。」


さすがにそのチャートは憶えてたので 「それって、ゴミ箱・営業だよね。」
「で、先生に訊いてみたんですよ。先生もリタイアマンとはいえ、今でも後輩の方が米国で社長をしてらっしゃるじゃないですか。直接NYや英国に電話して情報収集してらっしゃるでしょ。」

「オックス・ブリッジ両方行ったって仰ってたもんね。」
「ナイトに叙せられて、オウン・キルト登録したんでしたっけ。」


先生は、名前も知らないけど月に何度かこのBARでお目にかかるヤタらと偉そうな、元・商社マンである。
普通のエリートサラリーマンではなく、ご自分の能力だけでイロイロやってこられたようだ。
エリーtの行き止まりみたいな人生を歩んでもいいはずなのに右に左に面白い人生を送っておられるようである。
住商…三流だ!○○で(内容は覚えてません)、それでもあの程度の売り上げだろぉ」と仰る御仁である。



「それで、先生はなんて?」
「うつむいて、、静かに首を振ってらっしゃいました。」 とマスターも左右に首を振る。

「んー、、、だろうと思うよ。」



「だから母親には、タイミングは調べるから絶対に何も買わないように言ってるんですよ。
 買うなら安心して買えるタイミングで、、、メガバンク株ですよね、ミズホがほしいなーと思いますが。」

「国営・りそなでもイイと思うよ。りそなとミズホは菱・友みたいに余計な仕事する気ないし、、配当高いし。」
「はははは。」


あとは、どんな話をしたたか憶えていない。
いつしか画面は、カフェ・ブルー・パロットのボガードにかわっていた。
「青鸚鵡」の方がリック=ボガードの「アメリカン」より雰囲気あっていいと思うなあー



マスターの父親も今年の春から延長雇用が終わって退職したときいた。
ケンメリから始まってクルマ道楽もさんざんやったし、いいカメラもたくさん持ってたのにリタイアすると
「半日テレビの前ですよ、焼酎のみながら。趣味、もうしないです。仕事あっての趣味だったんですかね。(笑)」


そんな真面目に手堅く生きてきた60代の年金夫婦が思わず口座開設。
そういう相場環境というか、相場ムードのようである。




先週末に聞いた話として残しておく。

20世紀前半の米国で、靴磨きの子供が株の話をするのを聞いて売り逃げたのって誰だったっけなー
バーナード・バルーク伝説だっけなー