小料理屋の猫



逆向き空いた電車で、大阪キタのターミナル梅田へ。



右ポケットの中で力尽き柔らかくなってしまった使い捨てカイロに

ありがとう貴君のことは忘れない、と心でささやいて ゴミ箱へ…


ぐったり疲れた10時過ぎ、横丁の小料理屋へ辿りつく。






横コの字型の小さなカウンターの手前の椅子

その椅子のひざ掛け毛布が膨らんでいる

毛布の端から猫の耳がのぞいている



ああ、今日も来たのか


数カ月前からよく見る猫である





まだ幼い、そろそろ子猫を脱するトラジマで
10時過ぎにはやって来る

造りのきれっぱしをもらっているようで
いつも店にとぐろを巻いている常連女が
大将から手渡された発砲トレイをもって路地に出ていく姿は何度も見た




野良猫に餌をやるのは不見識だぜ (笑)
自分が親方から預かった大事な店で
ボンちゃん・部下 が猫に餌やってたらなんていう?

と、一度意見して困った顔を見たのでそれ以降は知らん顔している




知らん顔していたが、今夜 わずか9席の

端から2番目に猫の耳がのぞいていて

6・7・8番目に キンタロ婆(団塊) と 鯨の姐さん(50代)、 
そして ふんにゃり・市役所 が大声・盤踞していると (ふんにゃり は小声)
奥の1席は便所前で短いコの字折れ・今夜のキンタロ婆の汚染エリアだから

…猫のひとつ置いて隣に座らざるを得ない




勘弁してくれ、キンタロと猫のあいだかよ… 
しかも隣はキンアタロ・鞄  (これがまた いいバッグでかえってワビしい)     …と着席



ビール下さい   

無言で…突き出しは湯葉豆腐ホット・柚子の香り



猫から蚤が来そう…などと思いながら熱い湯葉豆腐を急いで食う

頼んでもない野菜味噌汁が出てくる…  目を合わせない大将 …




ビールを味気なく飲んで、みそ汁を飲んで
…お勘定


   950円



目を合わせずに店を出る





…常連ばかりの店で

最古参は大将が勤め時代からのリタイアマンで30年通ってる


若手の常連で10年かな

オレは、この2年ほどだが、、いい店なのである




なぜ、野良猫を

お客様をもてなす店に入れてはいけないかが

分からないのかなあと   いや、分かってて    やるのかなあ     …想う




なにか遣る瀬ないこと

つらいこと…

を、誰でも抱えて生きている




無関係なもの  ネコなどに善意の発露を求めると

しばし、しがない自分を忘れるのかなとも思う




昨日

つまらない中年男にダマされているのに気づかない女の話を書いたが

ややもすると 誰でも 自分が誰に責任を負っているのか

忘れてしまうものなのだろうと思う




オノレひとりjの男の人生を

ナントカさせて下さるのは

お客様である




そこに、野良猫をすわらせて、毛布にくるまって寝かせていいかどうか

させてる本人もわかっていて

それでも、させているのである。 




このように掛け違えていくことは多いのだろう



自分が誰に責任をもっているのか?

忘れずにやってこれたのは

ムスメ共が半人前だったからで …




オレも老境に達して


バカ老人になるのかと思うと

目の前から消えていった

多くの事柄に、自分さえも加わるのが人生かと


そして


それについて語る言葉さえもたない自分に  … 気づくのである。





もうすぐ、また


新しい春が   巡ってくる。