真夜中に見る 夕日を浴びた こんじきの ライオン



草原が尽きて、岩場を渡ると崖の上から海原が見える

ライオンは百獣の王   その王国  草原の王国が尽きた崖の上から、

草原の王は、洋上の小舟のオレをみている



小さな釣り船は波にたゆたい、ささやかな釣果とともにオレを港へはこぶ



傾いた陽を浴びて 金色  こんじきに輝くライオンは静かにこちらをみている

自分の王国の外、そのすぐわきを、 決して自分がそこに入ることのない、海流の国、洋上を

たよりなく波にもまれて過ぎて行く、決して交わることのない、かよわい船と

その上の カゲロウのような男を、しずかに口を結んだライオンは見ている



オケアノスの力、日々のたゆみない御業によって、 たちまち遠ざかる、西日の中の距離

深い紺色、泡立つ波頭を超えて、 たぶんもう二度と会うことはない

それでも、あの切り立つ崖の上の  きらきらと輝くたてがみのものが



ライオンか  あるいは私自身  あるいは 憧れの 

もう忘れた 遠い昔のあこがれの 訪れ 



私なのか 恋い焦がれた何かなのか、それすら曖昧な

それ  と出会った瞬間だったと なぜか、わかるライオンと私  その距離



もう想いだせない でも それがあったのは 憶えてる

たまゆらの      

ぬくもりり  やわらかな   ものの   

肌をなぜてゆく記憶






もう見えなくなった ライオン

それでも まだきっと

崖の上から ライオンは 群青のうえにおどる  波頭を みている        きっと



海流の彼方に  ライオンの中の  何かであった  オレが  


静かに  音もなく  ライオンを見ながら  去って行ったのを   知っている




真夜中に見る  幻影ともつかない情景は   決まって  


なぜかは 知らぬが   


夕日を浴びて 崖の上から 小舟にゆれる オレ見ている    


こんじきの ライオンなのだ