今年もまた、さくら咲き、さくら終る。
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晴れたり花曇ったり、桜の終わった週末。
あけて月曜日は昼から雨であった。
夕方、小やみになってまた激しく降り出した。
こういう夜はどの酒場も暇である。
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遅がけにのぞいた いつもの小料理屋。
大騒ぎの30男とネエチャンの3人組が
カラオケ行くぞーと大声で勘定をしていた。
やれやれいいタイミングだ。
たぶん俺が最後の客だ。
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カウンターを片付けてもらって
まんなかの明るい席に坐る。
「ビールを。」というと
返事もせずに大将がサーバーに向かう
だまってても出てくるのだが、
必ず「ビール。」という。
「いつもの。」とは言わない。
「いつもの」と嬉しそうにそう注文する老・常連をみて
「そういう親密感もなんか気の毒だな…」と
若い頃おもったからである。
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突き出しは揚げとゆば豆腐
雨の日は突き出しに力が入らないらしい
さーてどうしよう
あまり腹はへってない
わかさぎ南蛮漬け
葱とろ手巻き
新子は今日はないのか、残念。
葱とろ手巻き
新子は今日はないのか、残念。
あと、甘鯛のさくら蒸を下さい
桜ももう終わりだから食っとかなきゃ
桜ももう終わりだから食っとかなきゃ
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ああ、そうなの?
通り抜けは30年ほど観てないなあー
八重桜でしょ?
桜よ言うより桜餅が枝についてる風景だよね。
通り抜けは30年ほど観てないなあー
八重桜でしょ?
桜よ言うより桜餅が枝についてる風景だよね。
花見はいかれたんですか?
いやー行かない。
もう何年も行かない。
花を見てるんだか、人さまの宴会を観てるんだか。(笑)
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大阪から京都の現場へ向かう途中
府県境あたりで市街地が途切れて田畑がさっと広がる
府県境あたりで市街地が途切れて田畑がさっと広がる
線路からほど近い畔道の一角にまだ若い桜が一本だけ小さく咲き誇っている
その先の休耕地の先の集落の向こう、
山の緑が萌え初める中に点々と
点々と、桜の木がそこだけ山を明るい色に染めているのが見える。
たぶん大木、、もあれば、苗木のような桜もかすかに見える
とおく離れた畑の中に大きな一本桜もあるなあ。
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名所さくら、ではない。
人っ子一人いない一隅に、
ひとりポツンと咲いている。
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誰かが、20年30年あるいはもっと前に植えた桜が
今年も、いつもと同じように咲いている。
植えた人は、もういないかも知れない。
畑の桜も、山の中腹の木も、
わざわざ誰かが植えたものである。
自分がいなくなったあとも
毎年まいとし咲いてくれよと
毎年まいとし咲いてくれよと
きっとそう思って
長く咲いてくれと祈りながら、植えたものである。
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桜を植えよう
その桜がまいとし咲くのをみて晩年をおくろう。
その桜がまいとし咲くのをみて晩年をおくろう。
そして、オレがいなくなっても
その花を見る人は
毎年まいとしその花を見る人は
きっと綺麗だなと思ってくれるだろう。
ああ、幸せだなあー
と、誰かが昔、そう思って植えた木を
何十年かたって、今年のオレが
あわただしい4月の車窓から眺めている。
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そんなふうに、遠くさくらを眺めるのは
むかしの誰かの
不思議なくらいの善意を
観ることなのかもしれないと
思いながら、
むかしの誰かの
不思議なくらいの善意を
観ることなのかもしれないと
思いながら、
ことしもたくさんの桜をみた。
毎年のように、今年もまた、 十分にみせてもらったと思っている。
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